会社を辞める人にはさまざまな理由があります。
「仕事が原因による体調不良で退職したいけど、会社には病気のことを言いたくない」
「急に親の介護が必要になって今の仕事は続けられなくなった」
このような理由で辞めても自己都合退職になると思っている人が多いのではないでしょうか。
自分の意志で辞めた自己都合退職では失業保険をもらうまでに時間がかかります。しかし、一定の要件を満たせば失業保険をすぐに受け取ることが可能です。
実は私も自己都合退職でしたが失業保険をすぐにもらえた経験があります。
この記事では、辞めようと決意したのは自分だけれど、辞めざるを得ない事情がある人に向けて、自己都合退職でも失業保険をすぐにもらう方法を解説します。
失業保険をすぐにもらう方法がわかれば事前に準備ができ、退職後の手続きもスムーズに進むでしょう。
早めに給付を受けることで時間と気持ちに余裕がうまれます。ゆっくり将来について考え、自分に合った仕事を探しましょう。
失業保険とは
失業保険とは仕事を辞めるともらえるお金のことです。会社を辞めたけれど転職先が見つかっていない人の生活を補償するため、雇用保険から求職者給付が支給されます。
失業保険の「基本的なしくみ」と「受給するための条件」を解説します。あなたが受給できるかどうか、確認してみてください。
失業保険の基本的なしくみ
一般的に失業保険と呼ばれているのは、雇用保険の失業等給付の中にある基本手当です。正式には「失業保険」や「失業手当」という名称はありません。
失業等給付は、雇用が継続できなくなった場合に生活の安定と雇用の安定を目指すための手当てです。
失業等給付には「求職者給付」「就職促進給付」「教育訓練給付」「雇用継続給付」の4つの種類があります。
- 求職者給付:最も代表的な給付で、失業状態になった人々を支援するための手当て
- 就職促進給付:失業者が新たな仕事につくのを助け、過程の促進を目指した給付
- 教育訓練給付:新たなスキルや知識を学び、市場価値を高めるための取組みを支援する給付
- 雇用継続給付:働く人の職業生活を円滑に継続させることを目的とする給付
引用:ハローワーク 雇用保険制度の概要
この記事では基本手当を雇用保険と表して解説します。
受給資格があること
受給するには雇用保険の受給資格を満たしている必要があります。雇用保険からの給付のため、雇用保険を在職中に払っていることが条件です。
- 離職の日以前2年間に12ヶ月以上雇用保険の被保険者であること
- 退職前2年間に1年以上雇用保険に入っていること
(以下理由で離職した場合は特例を適用)
- 離職の日以前1年間に6ヶ月以上雇用保険に入っていること
- 倒産や解雇、会社都合
- 派遣で契約更新してもらえなかった人
- やむを得ない理由
- 結婚による引越しで退職する人
すぐ働ける人
失業保険は積極的に転職活動をしているにもかかわらず就職できない状態でないと受給できません。求職者給付とは求職している人に給付されるお金だからです。
受給するには働ける状態であることが条件です。具体的には以下の人をさします。
- 就職したいと思っている
- 就職できる能力(健康状態・家庭環境など)がある
次の方は原則、雇用保険を受給できません。
- 家事に専念し、就職を希望しない
- 昼間の学校に通っていてすぐに就職できない
- 自営業を開始、または自営業準備に専念する
自己都合退職でもらえる失業保険の受給額と計算方法
退職理由が自己都合の場合の失業保険を以下3つの観点で解説します。
- いつからもらえる?待機期間と給付制限
- いくらもらえる?計算方法と給付日数
- 自己都合と会社都合の違い
いつから、いくらもらえるのかが分かれば退職後の生活への不安が軽減されるでしょう。
失業保険はいつからもらえる?待機期間と給付制限
自己都合による退職の場合、給付が始まるまで2か月7日かかります。待機期間7日の他に2ヶ月の給付制限があるからです。
待機期間とは離職票をハローワークに提出した日から失業状態の7日間をさします。会社都合退職の場合は待機期間が終了するとすぐに支給開始です。
自己都合退職の場合は待機期間が終了した後、2か月間の給付制限期間に入ります。給付制限が終わらないと支給開始とはなりません。
離職理由 | 会社都合 | 自己都合 |
---|---|---|
給付の開始 | 待機期間7日経過後 | 待機期間7日+給付制限2ヶ月経過後 |
失業保険はいくらもらえる?計算方法と給付日数
雇用保険からもらえる給付金は基本手当日額×給付日数で計算できます。「基本手当日額」と「給付日数」について確認しましょう。
基本手当日額の計算方法
基本手当日額は退職前6か月間の給料をベースに、以下の式で計算します。
賃金日額=退職6か月前の給料合計÷180
基本手当日額=賃金日額×50%〜80%
基本手当日額のイメージは以下の表のとおりです。なお、年齢によって上限額が異なります。
基本手当日額の計算方法(60歳未満)
賃金日額 | 給付率 | 基本手当日額 |
---|---|---|
2,657円〜5,029円 | 80% | 2,125円〜4,023円 |
5,030円〜12,380円 | 80〜50% | 4,024円〜6,190円 |
12,381円〜上限額 | 50% | 6,190円〜上限額 |
賃金日額・基本手当日額の上限額(支給対象日:令和4年8月1日〜令和5年7月31日)
年齢 | 賃金日額の上限 | 基本手当日額の上限 |
---|---|---|
29歳以下 | 13,670円 | 6,835円 |
30〜44歳 | 15,190円 | 7,595円 |
45歳〜59歳 | 16,710円 | 8,355円 |
60歳〜64歳 | 15,950円 | 7,177円 |
※参考:厚生労働省 雇用保険の基本手当(失業給付)を受給される皆さまへ
給付日数
自己都合退職した人の給付日数は雇用保険に入っていた期間に応じて変わります。具体的には以下の表のとおりです。
雇用保険の被保険者であった期間 | |||
10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 | |
給付日数 | 90日 | 120日 | 150日 |
被保険者であった期間が1年未満の人は受給要件を満たしていないため、失業保険をもらうことはできません。
また、育児休業給付金をもらった経験のある方も注意が必要です。育児休業給付金をもらっていた期間は雇用保険の被保険者であった期間から除外されます。
私は勤続20年だったので給付日数は150日だと思っていました。
でも、約2年間、育児休業給付金をもらっていたので被保険者期間が20年未満になり、給付日数が120日になった経験があります。
自己都合と会社都合の違い
自己都合退職と会社都合退職の違いを確認しましょう。主な違いは「給付制限の有無」と「給付日数」です。
会社都合の場合、給付制限がないため離職票を提出した日から7日後には支給開始です。また、給付日数も年齢や雇用保険の被保険者であった期間に応じて違いますが、自己都合より長くなっています。
たとえば、45歳以上60歳未満で勤続20年以上の場合は最大で330日支給されます。
会社都合 | 自己都合 | |
---|---|---|
支給開始タイミング | 7日後 | 2か月7日後 |
給付制限 | なし | あり |
支給日数 | 最大330日 | 最大150日 |
会社都合退職とは解雇や倒産など会社側の都合によって失業することです。会社都合で余儀なく失業してしまった人は雇用保険上、特定受給資格者という区分に分類され、自己都合退職と比べて優遇されています。
自己都合でも失業保険をすぐにもらうための方法
会社が作成した離職票の離職理由が給付制限のある自己都合退職になっていても、失業保険をすぐにもらう方法をご紹介します。
- 特定理由離職者(正当な理由のある自己都合退職)に変更する
- 特定受給資格者(会社都合)に変更する
「特定理由離職者への変更」「特定受給資格者への変更」には正当な理由が必要です。正当な理由があって退職した場合は変更を相談しましょう。
特定理由離職者と特定受給資格者とは
特定受給資格者とは「倒産」「解雇」によって失業した人、いわゆる会社都合退職をさします。
特定理由離職者とは「雇い止め」「正当な理由のある自己都合退職」で失業した人です。自己都合退職でも正当な理由があれば特定理由離職者になることは可能です。
特定受給資格者と特定理由離職者の範囲は以下のとおりです。
特定受給資格者 | 倒産 | 会社が倒産(破産、民事再生、会社更生など)したため離職した 会社が大量の人員を減らすことを予定している 事業所が廃止された 事業所の移転によって通勤ができなくなった |
解雇 | 解雇された(自分に帰せられる重大な理由を除く) 契約締結時の労働条件が事実と著しく違った 給与が未払い、もしくは大幅に下がった 過剰な残業によって過労状態に陥った 妊娠、出産、育児休業、介護休業等に関する不利益な取り扱いを受けた 配慮のない職種変更や転勤を命じられた 期間の定めのある労働契約が更新されなかった(更新3年以上) 契約更新が明示されたにもかかわらず更新されなかった パワハラやセクハラが原因で辞めた場合(妊娠、出産、育児、介護に関する言動が原因も含む) 雇用主から直接、または間接的に辞めるよう勧められた(早期退職制度を除く) 休業が3か月以上続いた 事業所の業務が法令に違反した | |
特定理由離職者 | 雇い止め | 有期雇用契約で社員が更新を希望したが契約更新されなかった場合 |
正当な理由のある 自己都合 | 健康上の理由で離職を余儀なくされた 妊娠、出産、育児で離職し、受給期間延長を受ける 家庭の事情が急変し、親を扶養することになったり家族の看護に専念することになった 配偶者や扶養親族との別居が困難になった 次の理由により、通勤が不可能もしくは困難になった 結婚による転居 育児による保育施設の利用 会社の移転 立ち退きや天災等による転居 交通機関の廃止や変更 配偶者の転勤 配偶者の再就職に伴う別居の回避 |
参考:厚生労働省 特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要
特定受給資格者と特定理由離職者の範囲は意外と広いのがわかります。特定受給資格者か特定理由離職者になると失業保険をすぐにもらえるため、退職を考えるときは自分が該当するか確認してみましょう。
特定受給資格者・特定理由離職者へ変更する方法
会社から渡された離職票の退職理由が「自己都合退職」になっていても、特定受給資格者や特定理由離職者に変更できます。
変更しないと優遇措置が受けられないため、ハローワークで離職票を提出するときに相談しましょう。
しかし、あなたの主張が必ずとおるとは限りません。ハローワークで特定受給資格者や特定理由離職者だと認定してもらうためには、客観的な資料や根拠が必要となります。
参考:厚生労働省 離職理由の判断手続の流れ
特定受給資格者になるための手続きは、一人で進めるのが難しい場合もあるため、労働組合や弁護士などの専門家への相談も考慮してください。専門家のアドバイスを受けながら、スムーズかつ公正な手続きを進めることが大切です。
退職前の準備がポイント
自己都合から特定受給資格者や特定理由離職者に変更するには客観的な資料や根拠が必要なため、退職前の準備がポイントです。
たとえば、パワハラが原因で退職する場合は可能であれば証拠を残しておきましょう。音声の録音やパワハラを受けた日時・場所を書いた日記でも証拠になる可能性があります。
また、健康上の理由で退職する場合は退職前に受診してください。ハローワークへ提出する診断書には「在職中から症状が発生していたが、ハローワークで求職申込みするときには就労できる状態である」というような内容を記載してもらう必要があるからです。
失業保険を受給している期間中の注意点
失業手当は失業中の生活を心配せず、新しい仕事を探して1日も早く再就職してもらうために支給されます。失業保険の本来の目的とは違う生活をしていると最悪の場合、支給停止にもなりかねません。
失業手当の受給期間中に注意すべき以下の点について解説します。
- 求職活動の注意点
- アルバイトやボランティアをした場合
- 失業手当受給中に就職した場合の手続き
上のポイントに注意しつつ、失業保険の受給期間を活用して次のキャリアをじっくり考えましょう。
求職活動の注意点
失業保険は求職している人に支給される手当のため、受給するには求職活動をする必要があります。
失業保険の支給を受けるためには、前回の認定日から次の認定日前日までの期間中に最低2回以上求職活動を行わなくてはいけません。
求職活動として認められる活動例を紹介しましょう。
- ハローワークや転職エージェントでの就職相談
- ハローワークや転職エージェントの講習やセミナーを受講
- 求人への応募
- 試験や検定の資格試験を受験
ハローワークに行って求人情報を検索しただけでは求職活動実績として認められません。検索した会社について窓口で相談したり、実際に応募したりと、就職に向けた動きが見られないと求職活動実績にはならないので注意してください。
アルバイトやボランティアをした場合
アルバイトやボランティアをした場合は認定時に申告が必要です。正直に申告しないと不正受給とみなされる可能性があります。
ボランティアは報酬が出なくても申告が必要です。アルバイトや内職、手伝いなどで報酬を得た場合は、労働時間や収入額に応じて給付金が減額されることもあります。
働いた事実を申告しないと不正受給とみなされ、悪質な場合不正とみなされた金額の3倍を返すことになりかねません。
受給期間中に仕事をした場合は必ず認定時に申告してください。後からバレると厳しい処分が待っています。
失業手当受給中に就職した場合
失業手当を受給中に就職した場合、残っている支給日数に応じて再就職手当をもらえます。
再就職手当は就職する前日時点での支給残日数によって給付率が変わります。
支給残日数 | 給付率 |
---|---|
3分の2以上 | 70% |
3分の1以上 | 60% |
失業手当日額4,000円、所定給付日数90日の方が支給残日数60日の時点で就職した場合にもらえる手当の金額を計算してみましょう。
所定給付日数90日に対して失業手当の残日数60日(3分の2以上)なので、再就職手当の給付率は70%となります。
再就職手当の金額は、4,000円×60日×70%=168,000円です。
失業手当日額4,000円、所定給付日数90日の方が支給残日数59日の時点で就職した場合、残日数が3分の1以上に該当するので再就職手当の給付率は60%となります。
再就職手当の金額は、4,000円×59日×60%=141,600円です。
残日数の違いは1日でも給付率が異なるため、もらえる金額に26,400円の差が発生しました。
再就職手当は支給残日数によって金額が異なり、早く就職した方が多くもらえることを知っておきましょう。
失業保険を受け取るまでの5ステップ
会社を退職してから失業保険を受け取るまでの手順を5ステップで紹介します。
- ハローワークで求職申込手続きをする
- 雇用保険説明会に参加
- ハローワークで初回認定を受ける
- 求職活動
- 認定日にハローワークに行く
会社から離職票が届いたらハローワークへ行き、求職の申込み手続きを行ってから離職票を提出します。ハローワークへ行く際に必要な書類は以下のとおりです。
- 離職票
- マイナンバーカード(または個人番号の記載のある住民票)
- 身元確認書類(運転免許証、官公署が発行した身分証明書など)
- 証明写真2枚
- 本人名義の預金通帳またはキャッシュカード
ハローワークで受給要件を満たしていることを確認したうえで受給資格の決定が行われ、離職理由についても判定されます。
離職票で離職理由が自己都合となっていても、特定受給資格者や特定理由離職者に該当する人は離職票を提出するときに相談しましょう。
雇用保険説明会では雇用保険の受給手続きの進め方や就職活動についての説明があります。
また「雇用保険受給資格者証」や「失業認定申告書」などこれから受給手続きをするにあたって重要な書類が渡されるため、必ず参加しましょう。雇用保険説明会で次のステップである初回認定日が案内されます。
初回認定日にハローワークへ行き、待機期間の失業認定を受けます。待機期間とは、受給資格の決定を受けた日から失業の状態が通算して7日間経過するまでをさします。
自己都合退職により給付制限がある人は初回認定を受けても手当の支給はありません。次の認定日(約2ヶ月後)が案内されるので、次のステップに進みましょう。
特定受給資格者や特定理由離職者に該当し、給付制限のない人は初回認定を受けて約1週間後に手当が振り込まれます。
前回の認定日から次の認定日までの期間中に、2回以上の求職活動が必要です。求職活動とは「求人への応募」や「ハローワークが実施する講習やセミナーの受講」などが該当します。
ハローワークへ行って求人情報を閲覧したり、インターネットで検索したりしているだけでは実績になりませんので注意してください。
ハローワークで職業相談をすると求職活動実績1回にカウントされるため、初回認定を受けた日に同時に職業相談しておくとハローワークへ行く回数が減って効率的です。
決められた認定日にハローワークへ行き失業認定を受けます。認定日に必要なものは以下のとおりです。
- 雇用保険受給資格者証
- 失業認定申告書
- はんこ
再就職が決まるまで、原則として4週間ごとに認定日が指定されます。忘れずにハローワークへ行きましょう。所定給付日数がなくなるまで、失業認定と受給を繰り返します。
まとめ
自己都合退職でも給付制限を待たずに失業保険を受け取る方法と給付を受け取るまでの手順を以下のポイントで解説してきました。
- 自己都合退職でもらえる失業保険の受給額と計算方法
- 自己都合と会社都合の違い
- 特定受給資格者・特定理由離職者へ変更する方法と事前準備
- 失業保険を受け取るまでの5ステップ
退職前に会社に事情を説明し、解雇や正当な理由のある自己都合退職として認められるに越したことはありません。しかし、現実ではうまくいかないことも多いでしょう。
会社から自己都合退職として扱われても、失業保険をすぐに受け取れる方法があることを知り、事前に準備しておけば退職後の生活や心持ちは変わります。
制度を理解し賢く使って、ゆっくり将来のことを考えてください。
コメント